同じ漢字で表現されながらも中国と日本で異なる意味を持つ言葉はいくつもあるが、「城」もその一つである。中国の伝統的な意味では「城」は都市を囲む「壁」であり、転じて壁で囲まれた都市をも指す。これに対し日本では「城」の意味するところも多義的であるが、第一に軍事要塞、第二に兵士の指揮官が暮らす屋敷の二つが主なところであろう。中国の都市を囲む壁は外敵の攻撃を防ぐという目的をもつため、軍事要塞としての日本の「城」と共通点をもつが、壁に囲まれた都市は日本国内では一般的に見かけるものではなかった。一方、日本の「城」でイメージされる近世城郭の天守や石垣は、逆に中国国内では珍しい存在である。なぜ同じようでいてこれほど違うのかを一言で表現すれば、国家や武力のあり方が違っているのだ、ということになる。本授業では「城」を手がかりに、中国と日本それぞれの国家・武力の特色を考えていきたい。

なお、日本の「城」について考えるにあたっては、身近な素材として三重県及び近隣諸地域の城郭にもふれていく。